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『陬波御記文』とは

金沢文庫には『陬波御記文(すわみしるしぶみ、‐おんしるしぶみとも)』とその注釈書の『陬波私注(すわしちゅう)』という二つの文献が所蔵されている。

『御記文』には、金沢称名寺2代目長老の剱阿(けんな、1261年-1338年)と、同時の僧・全海と、「某」の三人による三冊の写本が残されている。剱阿本の巻頭の部分しか現存しない一方、全海及び「某」の本は全文を存している。全文漢文であるが、訓点が施されている。全海と「某」による『私注』の写本二冊も残されており、某本の「正和二年十二月廿五日 写之」に対して全海本には「同三年二月十七日 写之 同年下春中旬 写之」が付け加えられていることから、全海が「某」のものを書き写したと思われる。

『諏訪信重解状』(伝・宝治3年(1249年))によれば、諏訪明神と同視された現人神・大祝(おおほうり)は神事の際に明神の「口筆」が記された「大宣(おおのっと=大祝詞)」を読み上げて、天下泰平の祈請をしたという。この『御記文』は、諏訪上社の御射山(みさやま)祭の時に大祝が明神の託宣として朗読したその「大宣」と考えられている。

諏訪より東方は上社の信仰圏であったため、鎌倉に上社の信仰を記した古書が伝わってもおかしくないと言われている。そもそも水内郡太田庄の金沢氏が、御射山祭に仕えた上社の氏子であったと見られる。

 

参考

陬波御記文


陬波大王、限甲午身。陬波與甲午、印文同一物三名。我印文能持身心。得二此人一思二真神體一、定二正法持国法理一。我從二燃燈佛一以來、以二神通一見二諸業類一、六趣之中愚癡者、一切禽獸魚蟲身。流-轉二生死一迷二生死一、依二不信一依レ行二非法一。以三不信内誑二人性一。以三非法外窘二自慾一。不信非法流轉因。皆是我無始分身。殺二鳥鹿一自用二贄祭一、懺悔歸二淨土一善巧。於二如レ此贄料神物一、雖二禽獸一有レ非被レ咎。何況於二人類非一乎。我雖レ呑二熱鐵炎丸、不レ禀二非例人祭禮一。斷-盡二三業作罪一故、此蜜會名二三齋山一。此山生二靈鷲山艮一。當慈尊該二法華一地。故名二普賢身變山一。踏二此地一不レ墮二惡趣一。此地及二草木樹林一、皆是我身分所現。剪二草木一穿二寸地一者、非二我神人一。斷二其種一。有二惡種一生二惡行一故。治レ国法レ位依二正法一。是不變決定戒行。我以二正法一爲二正體一、行二正理一爲二正祭一故、恐レ神不レ犯レ非正法、守二本誓一不レ貪正理。正法正理爲二法理一。能施二大威徳神力一、能退-散二天下灾蘗一、以二正法一治二国土一時、率二千惡神一滅二其雔一。法理行二非法非理一、永弃不レ親-近二七生一。若有レ助レ此罸二其人一、我敵也。難二能可一レ助。鋻二末世凡夫心品一、我演二如レ是誠實言一。我神人莫レ致二罪過一。况殺害共追二千里一。令三打-殺二正理神人一、一度打我百日惱。複レ本日備二百兩金一。殺者我三世怨敵。三寸(虫+反)虱皮千枚、綾羅錦繡外万寶、積置二一丈一百日間。責捧二神鉾一追二異国一。持二我本誓一不レ離レ身。持レ是我躰口作レ鼻。我記文諸經肝心。是諸佛出世正法。諸神無二非例一同誓。背二記文一早追二千里一。我安住擁-護二国土一。不レ追捨レ此歸二本国一、我以二正法一爲二甲冑一、以二正理一爲二弓箭劔一。何神力何伏二魔怨一。千惡神三界魔王。護二正法正理一隨レ我。不レ行二正法正理去。去立天下起灾難。能知二此本誓一法理、背此誓全不法理

  自餘口傳雖之、最祕蜜之間輙難

 正本御記文者梵語也、大明神御印判
之、輙凡人不拜見、此本者摸梵語於漢字一也、大明神結縁軰自觸耳可歟。

 

(書き下し文)


 陬波(すは)大王、甲午に限りて身を隠す。陬波と甲午、印文と同じくして、一物三名なり。我が印文能く身心に持つべし。此の人を得て真の神体と思ひ、正法持国の法理ほふりと定むべし。
 我燃灯仏に従りて以来、神通を以て諸業類を見るに、六趣の中に愚痴なる者は、一切の禽獣魚虫の身なり。生死に流転して生死に迷ふこと、不信に依より非法を行ふに依りてなり。不信とは内に人の性を誑(たぶら)かすを以てなり。非法とは外に自慾を窘たしなむを以てなり。不信非法、流転の因なり。皆是れ我が無始の分身なり。鳥鹿を殺して自づから贄祭に用ふること、懺悔して浄土に帰する善巧なり。此の如き贄料神物に於て、禽獣なりと雖も非有らば咎を被らん。何ぞ況や人類の非に於てをや。我熱鉄の炎丸を呑むと雖も、非例人の祭礼を禀けじ。
 三業の作罪を断て尽くすが故に、此の蜜会を三斎山(みさやま)と名づく。此の山は霊鷲山の艮(うしとら
​)より生ぜり。当に慈尊の法華を説きたまへる地なり。故に普賢身変山と名づく。此の地を踏むものをば悪趣に堕とさじ。此の地草木樹林に及ぶまで、皆是れ我が身分の所現なり。草木を剪り寸地を穿たん者は、我が神人に非ず。其の種を断つべし。悪の種有れば、悪行生するが故なり。国を治め位を法ること、正法に依るべし。是れ不変決定の戒行なり。
我正法を以て正体と為し、正理を行ふを、正祭と為すが故に、神を恐れて非を犯さざるは正法なり。本誓を守りて貪らざるは正理なり。正法と正理を法理と為せん。
 能く大威徳の神力を施して、能く天下の災蘗を退散し、正法を以て国土を治めん時、千の悪神を率ゐて其の讐あだを滅せん。法理として非法非理を行はば、永く棄てて七生に親近せん。若し此れを助くるもの有らば、其の人を罸せん。我が敵なり。能く助くべきこと難し。
 末世の凡夫の心品に鋻みて、我、是の如き誠実の言を演ふ。我が神人、罪過を致すこと莫れ。况んや殺害をや、共に千里を追へ。正理の神人を打殺せしめば、一度打たるるは我が百日の悩なり。本に複せしにて、日に百両の金を備ふべし。殺さん者は、我が三世の怨敵なり。三寸の(虫+反)虱の皮千枚、綾羅錦繡の外は万宝、積みて一丈に置くこと、百日の間せよ。責めて神鉾を捧げて異国に追へ。
我が本誓を持し、身を離れざれ。是れを持たんを我が体とせん。口を鼻と作すべし。我が記文は諸経の肝心。是れ諸仏出世の正法なり。諸神も非例無きこと同じ誓なり。記文に背かば、早く千里を追へ。我安住して国土を擁護せん。
 追はずんば、此れを捨てて本国へ帰らん、我が正法を以て甲冑と為し、正理を以て弓箭・剣と為す。何の神力を何として魔怨を伏せん。
 千の悪神は三界の魔王なり。正法正理を護りて我に随へ。正法正理を行はずんば去るべし。去らば立ちどころ天下に災難起らん。能く此の本誓を知るを法理とせん、此の誓に背かば全く法理にはあらず。

  自余の口伝之れ在りと雖も、最も秘蜜の間、輙ち之れを写し難し。

 正本御記文は梵語なり。大明神御印判之れ在り。輙ち凡人の拝見する及ぶべからず。此の本は梵語の漢字に摸せるなり。大明神結縁の輩自ら耳に触れ、拝見に及ぶべきか。

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